三、中小業者・国民の共同こそ経営危機打開の確実な力

(1)中小企業・中小業者の役割の発揮

 私たち中小企業・中小業者は、モノづくりや流通・サービスの提供で、大企業に負けない、優れた技術・技能を持っています。
 「日本の山河と大地、人々の生産と労働の中で生成した商工業者は、それぞれの地域の風土、資源の活用を通して産業をおこし、住民の生活に必要なモノを供給し、住民の生活を支え、高齢者や子供を大切にするまちづくりに貢献してきました。また、モノづくりにおける新製品・新技術開発の基盤を担い、先端産業の飛躍的な発展と、日本経済を支えてきました」(全商連の「中小業者宣言〈案〉」)。
 「グローバルスタンダード」(国際標準)の名のもとに、国内の産業を切り捨てる政策の進行は、地域の個性や文化を破壊します。また、「健全な中小企業の活動のないところでは町が荒廃してしまう」ことは世界の教訓になっています。
 中小企業・中小業者の役割の発揮がますます求められる時代です。そして、わが国では実際に、「自らの力で、この危機を打開していこう」という中小業者、その自主的な組織、集団、グループが生まれてきているのが今日の情勢の特徴です。「もう大企業のおこぼれを待っている時代ではない」と中小企業者のネットワークで、新しい製品・販路を開拓し、「需要はある」ことを実感した経験がつくりだされました。
 また、一人の業者の経営難を仲間でとことん話し合い、その業界の不況の原因と実態を詳しく調査するなかから、その産業が地域で担っている大切な役割を浮き彫りにして、市・県そして国会でもとりあげられるまでに運動化した例もあります。
 このような新しいPR動が目に見える時代です。
 中小業者が自らの力と役割に確信をもって、自らの力で打開していく流れが全国的な流れとなる方向こそ、いま求められているもっとも確実なもうひとつの不況打開の道ではないでしょうか。

(2)経営努力を国民と共に

 私たちは、これまで、地域経済の振興や中小商業の振興などの提言のなかで、国等の政策批判や責任追及とともに、それだけでおわるのではなく、自らの経営努力の方向についても提言してきました。私たち自らの役割も自覚し、時代が求める中小業者に成長していく努力をつよるめることは当然のことだと考えてきました。
 そして、私たちの経営努力の方向も、消費者・住民・労働者とともにすすめる方向が重要だと考えます。  こうした共同の力での経営革新、地域振興の力づよい計画を土台にしてこそ、金融その他の国・自治体の支援の拡充の可能性をひろげます。
 これまでの全国各地での経験に学んだ4つのポイントを提案します。

1.「振興策を考える会」「自分の仕事を語り合う会」(仮称)などを無数に

 業種別に、あるいは異なる業種の業者が、5人、7人、10人とその規模にこだわらず、親しい仲間から「振興策を考える会」「自分の仕事を語り合う会」(仮称)などの集まりをもって、自由に打開策・振興策などを話し合う場を無数にひらくことが大切です。
 組織づくりから出発するのではなく、それぞれの技術や技能を生かすことを組み合わせるゆるやかな共同・連携をめざす討論、研究から、新たな知恵が生みだされると考えます。
 また、個々の経営努力のリアルな実態に光をあてて、それを評価・激励・学び合うことが当然重要な基本になります。
 「悩みのない業者はいない」今日、すべての業者はそれぞれの経営努力があるはずです。この交流は、「宝を発見し、宝を磨く場」です。

2.消費者・住民や労働者、そして自治体とともに

 モノが溢れている時代といわれますが、大企業が企業利益を中心につくったモノが溢れているのです。それにしばられるのではなく、本当に消費者、労働者が求めるモノやサービスのあり方を、消費者、労働者とともに考えるなら、まだまだ需要を開発することが可能ではないでしょうか。大企業的生産と流通では採算に合わない場合も、中小企業・中小業者なら可能なものもあります。
 そして、国・自治体のさまざまな制度を活用したり、自治体とともに研究していくことも有効です。自治体の地域での産業振興対策のなかには、問題点が多く含まれている場合があります。しかし、少なくとも、地域内の産業を全く無視したものでない場合は、評価、活用できる部分が必ずあります。そこに大いに着眼することが重要です。

3.ひろく国内外の経験に学び広い視野で

 他の地域や他の業種での経験や外国の事例にも目を向けるなど、経済の国際化のいま、広い視野が必要です。
 大企業とほぼ対等の取引をする欧米の中小企業者の姿から、国等の制度の違いもさることながら、経営者の姿勢を学び、自らの経営に生かした例や、逆に、外国の製品を見て自らの製品の品質に確信をつよめることとなった、という例もあります。
 これからは、私たち中小業者の側から外国に発信していく攻勢的経営が必要です。

4.産学共同の民主的発展を

 今年の国会に政府は、「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」を提出しました。技術研究者の3割は大学に集中していますが、大学からの特許申請は1%に満たないのが現状です。この法律は、このような状況の改善をはかることが目的ですが、私たちも、大学の研究者や試験研究機関との連携を意欲的におこなうべきです。
 大学の研究が大企業の下請でなく、自主的な研究として発展することが重要です。そして、その研究が地域の中小企業、地域経済の振興に結びつくための、私たちの側からの働きかけが大切になっています。
 従来の経験のワク内にとどまり、「大学の技術研究など、とても自分たちの手が届かないこと」とはじめから決めつけてしまうのでなく、大いに接触・挑戦していくことが重要です。
 大学の研究者も、実用化・事業化には意欲と関心を強めており、地域の中小業者との技術研究の連携・共同を望んでいます。