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地域経済振興と中小業者・国民本位の金融めざす提言
2001年6月20日
全国商工団体連合会
提言を発表するにあたって

  「倒産することはない」と考えられてきた地域の金融機関が相次いで倒産する一方、合併で巨大銀行が誕生するなど、いま、わが国の金融機関は激しい変化の時代の真っ只中にあります。
 国民の圧倒的多数は、金融機関と何らかのかかわりをもっており、この激しい変化の影響を受けてきました。その多くは、融資の拒否、担保に差し入れた家の競売、老後の生活設計が狂う預金の超低金利など予想もしなかった被害でした。バブルを煽ったのもバブル破たんとその後の長期不況も、一部の金融機関が公共的責任を投げ捨てた経営に走ったことと深い関連があることを、多くの国民は痛みの体験を通して知りました。
 とりわけ、中小企業に対する貸し渋りと強引な取り立ては、倒産と失業者を記録的に増やし、地域経済社会に大きな弊害を及ぼしています。
 私たちは、中小企業者、国民がこのような被害・犠牲をうける事態になった根本原因は、大銀行が自民党と手を組んですすめてきた「金融システム改革」にあると考えています。
 加えて、大手銀行と小泉内閣は、日本経済活性化のためには銀行がかかえている不良債権を処理することが不可欠だという口実で、およそ30万の中小企業を2年から3年の間に、消滅させる方針を強行するというのです。すでに多くの中小業者が、地域金融機関の破たんに関連して、倒産・廃業に追い込まれています。
 中小企業の倒産や失業者が増えれば、景気は冷えるばかりです。景気が悪くなれば、また、不良債権も増えるではありませんか。そもそも、今の金融政策をそのままにしておいて、銀行の不良債権がなくなれば中小企業への貸し渋りが無くなったり、景気が良くなるという保証はありません。
 中小企業者だけでなく、多くの国民は、いまの「金融改革」がもっとすすめばその先に、明るい未来があるとは思っていません。逆に、今後、銀行がどうなるのか、という関心・不安が強まっています。
 私たちは、このような現実を踏まえ、中小業者・国民の立場からの「金融改革プラン」が求められていると考えました。今後、銀行が「どうなるのか」という発想を一歩すすめて、「どうするのか」、を探求していく時期にあるのではないでしょうか。
 大手金融機関と自民党中心政府による「金融改革」から、「国民が主人公」の金融改革への転換でこそ、21世紀を輝かしい世紀とすることができるのではないでしょうか。また、いまの中小業者の経営危機を打開する緊急の金融対策が求められています。
 今回の提言は、アメリカの「地域再投資法」の考え方を視野に入れつつ、わが国の実情にそって、中小企業者の経営の活性化を地域経済の振興に結びつけるための金融を確立するということを焦点にしています。厳密な意味ですべての金融に触れていませんが、地域経済振興と中小業者の経営活性化へ、おおいに活用されることをねがうものです。
 私たちは、中小業者・中小企業団体のみなさんや各界のみなさんとひろく対話し、共同・連帯して、当面の経済危機打開と、国民全体の立場に立った金融システムの実現へ引き続き力を尽くす決意です。
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地域経済振興と中小業者・国民本位の金融めざす提言

−全商連の金融ビジョン−

はじめに

 「信用金庫の倒産で融資の道が切れてしまった」「銀行は理由説明もなく融資できないという。貸し渋りというより融資拒絶だ」「生命保険会社の倒産で老後の生活設計が狂った」など、中小業者・国民にさまざまな「金融被害」をひろげ、銀行、保険会社の経営のあり方への怒りは高まるばかりです。
 加えて小泉内閣は、不良債権(大手16行合計12兆7千億円 01年3月末現在)の最終処理を2〜3年の間に急激に行う方針を明らかにしました。この対象のほとんどは中小企業です。約三〇万の中小企業を清算型の倒産に追い込むというものです。銀行救済に税金投入をした上に、景気回復のための「経済対策」と言いながら、倒産、失業を生み出すことを柱にするような国は世界で日本だけだという指摘もあります。
 なぜこのようなことがおこるのか、日本の金融をどうすればよいのかという、金融に対する関心がつよまっています。資金繰りや返済に苦しむ中小業者の立場に立って、新しい金融の仕組みを築くことはできないのでしょうか。
 私たちは、それは可能だと考えています。すでに、無担保・無保証人融資の創設以来、さまざまな制度融資の改善をかちとり、最近の「特別保証制度」から保証制度全体の運用の改善にいたるまで、それまでの融資や保証の考え方を抜本的に変えるような変化を、運動と世論の力でかちとっています。また、商工ローン問題に関連して貸金業法や出資法を改正させ、上限金利の引き下げなど、一定の前進を実現しています。
 大銀行への公的資金の導入に対する批判の高まりのなかで、金融機関の公共的役割についての世論や貸し手責任の追及もひろがっています。
 こうした到達点を踏まえて、私たちは、中小業者・国民本位の金融のあるべき方向、そしていますぐ実行すべき緊急対策について提言します。
 私たち事業を営む者にとって金融は、人間の体にたとえれば血液のようなもの、そして、個々の業者の金融要求の解決は、地域産業の発展・地域経済の振興にも結びつく大事な問題だと考えてきました。この考え方は多くの中小企業者・中小企業団体の皆さんと同じではないでしょうか。
 新しい世紀の初めに、日本経済の根幹である金融を根本からたてなおすために、ひろく国民的な共同が大事だと考えます。提言が、その討論と運動の素材となることをねがうものです。

経営危機打開へ いますぐ必要な金融対策

 「経済恐慌」「資産デフレ」といわれるいまの経済危機を打開するためには、中小企業の活性化はもっとも重要な柱の一つです。なぜなら、製造、商業、建設、サービスなどの99%は中小企業であり、民間企業で働く人の80%は中小企業の従業員です。まさに、「日本の産業・経済の主役は中小企業」です。この中小企業が元気であってこそ、日本の経済は活気を取り戻すことができるのではないでしょうか。
借金返済に追われることなく、新しい意欲を燃やして経営に力を発揮できるように、直接的で効果的な支援策が、いま、緊急に必要です。
 その緊急対策は、「高度成長時代型」、「大企業応援優先型」とはハッキリ違う、これまでになかった新しく、思いきったものであるべきです。

1、「返済凍結」など、借金返済の苦しみを解消する緊急対策

 多くの中小業者の経営上の困難は、大資本の利潤追求第一主義、市場経済至上主義と、これを政策によって推進する自民党政治によって引き起こされています。自らの責任ではどうしょうもない状況で経営困難に追い込まれている中小業者に対し、国と大銀行の責任で、当分の間、「返済額の軽減」「返済凍結」の緊急措置をとることが必要です。また、「返済額の軽減」(借金の一部棒引き)のために「民事再生法」を利用しやすくすることです。
 多くの中小業者は、「借りたものは返す」思いが強く、そこから借金を返すために商工ローンなどの高利金融に頼らざるを得ない場合が少なくありません。優れた技術や技能をもつなど、地域に欠かせない役割を発揮できる中小業者が、借金返済の資金繰り対策に追われ、あるいは廃業を余儀なくされています。
 返済の苦しみを解消し、安心して仕事に打ち込める状態にすることは、個々の中小企業者の救済にとどまらず、地域の活性化のためにも重要です。

2、「出世払い融資」で中小業者に活力を

 新規開業や新事業への転換、新製品の開発などに取り組む中小業者に対し、緊急に、無担保・無保証人・超低利で、事業が成功した時から返済が始まる「出世払い融資」制度を国・自治体の協調で創設すべきです。
 いまの日本経済の危機を打開する最大のポイントは、中小企業を活性化させることです。そのためにも消費者の要求にこたえたものづくり、各種サービスの発展が欠かせません。
 国民生活と直接結びついた分野を担う中小業者が、住民のくらしや福祉の向上に役立つ新しい技術、製品、各種サービスを開発するための資金を円滑に確保できる、思い切った金融政策で、地域の中小企業経営の基盤を支え、活性化させることで雇用の機会も拡大します。
 これまで、大企業の石油開発や技術開発を応援するために、「成功払い」の融資や補助金に中小企業対策予算の何倍もの税金を注ぎ込んできました。いまこれを、中小企業向けに実行する時です。

3、「銀行倒産」の被害を中小業者に押しつけない対策

 金融機関や地域金融機関の破たんは、地域経済と中小業者の経営とくらしに大きな打撃を与えます。これらの機関の経営破たんは、「金融システム改革」や、金融機関が本来の役割から逸脱して投機行為に走ったことなどによるものです。  倒産・合併によって中小業者は取引先金融機関の変更、融資条件の悪化、強引な取り立てなどの被害を押しつけられます。整理回収機構(RCC)送りになれば、新たな融資が受けられないばかりか、一括返済さえ要求される事態となります。中小業者が納得できない損失・被害です。
 金融機関が倒産した場合も、引き続き融資が受けられる仕組みをつくるなど、銀行、銀行業界、国などの責任で中小業者を守り、救済する特別措置を講じるべきです。

中小業者・国民本位の金融の確立に向かって

 いま、わが国の金融は深い混迷と激しい変化の時代の真っ只中にあります。それは、日本の資本主義の危機と矛盾の深まりを示すものと言えるでしょう。
 中小業者と国民の経営とくらし破壊の被害は深刻に広がっています。そして、既存の金融機関に対する国民の信頼は大きく揺らいでいます。この事態を早期に解決することは、重要な国民的課題になっていると考えます。
一方、経営とくらしを守る中小業者、労働者などの運動が、中小金融機関との共同の方向も示しながら、新しい金融システムを打ちたてる攻勢的な方向へ変化・発展していることは貴重です。
 私たちは、この変化の芽を大きく育て、国民に信頼される金融機関、中小業者・国民の経営とくらしに貢献する金融に建て直していく方向を提案します。

1、地域経済の振興と結びついた地域金融機関の役割発揮を

 地方銀行、信用金庫、信用組合など地域に根ざした金融機関は、地域の中小企業者や住民に安定的に資金を供給することによって地域経済を振興し、あわせて金融資産の安全な運用を行うことを通して、国民の経営とくらしの向上に貢献する公共的役割があります。日常業務のすべての場で、この役割を発揮することが重要です。
 投機行為や禁止されている他業(KSD会員や生命保険勧誘などの行為)はキッパリやめることは当然です。
 地域の中小業者や住民からの預金・資金は地域の中小業者・住民の経営とくらしの向上に振り向ける、資金の地域内循環の中心の役割を担うことです。
 そして、地域内の中小企業者・住民に役立つ情報の提供、地域活性化への研究会の開催など、「地域振興のセンター」的役割を発揮することが求められます。また、地域金融機関のあり方、運営に関して中小業者・住民の要望、提案、意見を聞く、「住民参加の仕組み」をつくるようにします。
 こうして、中小業者・住民へのゆるぎない信頼と地域貢献の理念をつらぬくことで、地域とともに発展する金融機関への道が開かれると考えます。このような方向は、すでにいくつかの信用金庫では実践されており、また、業界のビジョンでも触れられています。
 中小業者・住民は、自分たちのまちは自分たちでつくる立場にたち、自らの経営と地域経済を振興させる努力をつよめ、その立場から地域の金融機関を活用・利用し、育てることが重要です。

2、中小企業向け融資の改革へ3つの原則を

1、担保・保証人を不要とする原則
 借りるのも返すのも業者本人であり、事業主・経営者の経営資源、将来性を尊重し、担保、保証人なしで融資を実行することを原則とすべきです。
 わが国では融資を受ける時、個人の不動産や有価証券などを担保として提供すること、本人に事故ある時に連帯責任を負う第三者保証人を立てることが当たり前になっています。一度事業に失敗すると、住む家も失い、人間としての生活が根本から破壊される制度では、新規開業や新事業展開への意欲も削がれ、経済の活性化にとっても弊害です。これは、世界的に見れば珍しい慣習です。
 また、中小企業者はもともと大企業と比較して物的担保等に不利を負っています。いまの情勢では、連帯保証人をたてることは容易ではありません。
 政府も「担保徴求の弾力化」通達をしばしば出してきたように、この慣習が中小企業者への融資の道を閉ざすことになっています。担保・保証人を求めることを原則とする融資制度の撤廃は、中小企業者の切実な要求です。

2、あらゆる差別をしない原則
 業種・職種、年齢、経験、性、組織・団体、地域などによる差別を一切行わないことを原則とすべきです。
 現実には、「若い」、「女性である」などで融資申請額が削られたり、特定の団体からの退会を強要されるなどの不当な差別がまかりとおっています。消費不況の影響を強く受ける業種ほど、運転資金融資を求めるのに、金融機関がそのような業種を「要注意業種」として貸し渋りを強めています。
 また、自治体の姿勢で、国の金融制度の扱いに差があることも、あってはならない「地域差別」です。優れた技術、技能をもっていても、高齢であるということだけで、差別することも大きな問題です。
 あらゆる差別をしない原則は、融資だけでなく、返済に関する条件変更についても、当然、貫かれるべきです。

3、納税を「要件」としない原則
 税金の完納を融資申込みの要件としないことを原則にすべきです。
 いま、自治体の制度融資でも、金融機関に直接の場合でも、融資の申し込みには税金の「納税証明」書の提出が求められることがほとんどです。所得税だけでなく、各種地方税の完納も要求される例が少なくありません。国・自治体の税務当局が、納税率を高めるために、中小企業向け融資の申し込みの際、「税金の納税証明」添付を義務づけるよう、金融機関等にはたらきかけを強めていることもその要因です。
 中小企業法人の六割は赤字決算です。また、中小業者の多くが国民健康保険の加入者ですが、国保税を滞納している業者は、たとえば全商連の調査では二六%にも達しています。もし、各種税金の完納を、融資申込みの際の「要件」とすると、何百万人もの業者は、融資の入り口で排除されてしまいます。これでは、赤字経営から融資を受けて、事業を活性化し、経営を立て直す可能性を奪ってしまうことになります。
 赤字経営を理由に融資しないことは許されません。税金の納入状況が融資の審査のなかで検討されることはあり得るにしても、融資申込みの「要件」にすることは撤廃すべきです。

3、高利貸金業のない社会へ

 私たちは、高利貸金業が栄える社会は異常な社会だと考えます。通常の金融機関が、本来の役割を当たり前に果たすことによって、高利貸金業が存在する必要のない状態をめざします。
 当面、貸金業法を登録制から許可制に改正することが必要です。また、利息制限法、出資法の上限利率を大幅に引き下げ、同率とすること、日掛け特例法の廃止が急務です。
 最近、大手銀行が「商工ローン」分野に進出していることもあり、高利貸金業の存在を認めないことを原則とする立場から、抜本的な法整備を急ぐことが必要です。この法的措置が実現するまでの間、警察等がヤミ金融などの違法・不当行為を厳しく取り締まるよう、強く要求します。
 また、テレビ等による消費者金融、高利貸金業の過剰なコマーシャルについて、各報道機関が自らの公共的役割を自覚して自粛すること求めます。

4、民間金融機関の公共的責任とあるべき方向

1、公共的役割をいっそう明確に
 金融機関はまず何よりも、自らの公共的役割、企業責任を自覚し、その役割を発揮することが必要です。すべての金融機関は、国民の預貯金・貴重な財産を守り、あらゆる産業活動に必要な資金を供給するなど、日本経済・国民生活の維持・発展にきわめて大きな役割をになっています。したがって、他の民間産業・企業とは異なる国等の規制・管理や、国民の批判や意見を受け入れ、国民とともに歩むという立場に立つことが当然です。政治献金の中止は公共性を貫くカナメの一つです。

 銀行協会、生命保険協会など各金融業界は、自らの業界の責務とその企業活動の理念、行動規範を定めた「倫理・行動綱領」などを作成し、ひろく国民に公開すべきです。また、これを厳格に実行すること、違反企業に対する措置についても業界として責任をもつことを要求します。

2、地域経済への貢献義務と国の金融機関検査
 すべての金融機関に対して、一定額以上を地域内中小企業に融資することなど地域経済への貢献を義務づけることが必要です。この義務は最低限度のものであり、地域経済のさらなる発展のために努めるものとします。
 国または自治体は、金融業者別に、地域内中小企業への融資実績、自治体の中小企業政策への協力状況、情報提供活動状況、苦情処理内容などで、地域経済や中小企業への「貢献度」を判定し、公表するようにします。「貢献度」の判定の際は、中小企業団体や住民代表の意見を聞くようにします。
 国の金融機関に対する検査について、信用金庫や信用組合に対しても、大手金融機関と同じような、「自己資本比率」向上を第一の基準にするやり方はやめるべきです。国等の金融機関への検査は、この「地域経済への貢献度」を第一の基準とし、地域への貢献度に応じて、検査基準を決めるなど、中小企業金融を積極的に行う方向に誘導します。この立場から、中小金融機関や中小企業者も加わった委員会を設置し、国民の立場からの「検査マニュアル」を作成することを提案します。
 また、一方的な店舗の閉鎖・撤退などを独占禁止法違反の「優越的地位の濫用」として規制するほか、貸し渋り、貸しはがしなどの「不公正取引」を厳しく取り締まることが必要です。

3、反社会的行為への規制
 ヤミ金融など公序良俗に反し、事業内容が違法な行為を前提としたもの、違法行為が相次ぐ商工ローン各社、ルールを無視した安売りなどで地域経済をかく乱する悪質事業者に対しては資金を供給しないなど、反社会的行為に対する融資規制を強化すべきです。
 「中小企業向け融資の三つの原則」の対象も、反社会的行為を行う事業者でないことが当然の前提です。
 投機マネーに対する規制は主要な資本主義国の合意になっています。その実態の把握を含め、有効に規制する対策の強化が重要です。

4、情報公開と国民との対話
 金融機関は、その経営内容の透明化のために、中小業者・国民の求めに応じて情報を公開することとします。中小業者・国民と金融機関の間でのさまざまなトラブルや被害について、政府や業界は「国民・消費者の自己責任」を強調しますが、国民が選択・判断できるように情報を公開していないことが根本問題です。
 公開すべき事項は、経営内容、地域経済への「貢献度」への自己評価と今後の対策、融資の拒否・減額の理由、などとします。中小業者や住民の情報公開要求に応じられない場合はその理由を明らかにし、理解と納得が得られるようにつとめなければなりません。
 また、国民に開かれた金融機関へ、国民との対話を積極的にすすめることは、金融機関に対する国民の信頼を回復するためにもきわめて重要です。特に、大手金融機関は国民の疑問や要望を聞く体制が全く不備で、国民に閉ざされた大企業になっており、この面での大改革・改善をつよく要求します。

5、国・自治体の責務と公的金融の新たな役割

1、金融機関への規制、監督は国の責任
 国の第一の任務は、国民の生命と財産を守ることです。ところが、自民党中心政府がすすめてきた「金融改革」の結果、金融機関は公共的責任を投げ捨て、「利益至上主義」の競争に走り、国民に大きな被害を与えました。その責任は重大です。
 金融機関は、民間私企業とはいえ、その事業の特性から、他の民間企業とは異なる公共的役割があります。
 いま必要なことは、国の責任として金融のもつ公共的役割を明確に位置づけ、金融機関を他の民間企業と区別して、適正な規制と管理のもとにおくことです。その上で、中小業者・国民の苦情・相談などに機敏に対応できるよう金融機関に対する指導・監督体制を強化することを求めます。
 また、大手金融機関と中小金融機関を正しく区別した検査・指導が重要です。

2、公的金融機関は中小業者・国民生活支援重点に転換を
 政府出資の金融機関のあり方を、大企業応援重点型から中小企業、国民生活支援重点に切り替え、国民生活金融公庫、住宅金融公庫などが本来の使命を果たすように改善をはかるべきです。
 たとえば、大企業の海外進出を支援する「国際協力銀行」への政府出資額は、六兆六千七199億円で、国民生活金融公庫の22.9倍です(00年三月末現在)。核燃料サイクル開発機構、原子力研究所などの政府出資特殊法人が、資本金の75%〜90数%もの欠損金を出している実態へもメスを加え、国民生活金融公庫、中小企業総合事業団、中小企業金融公庫、住宅金融公庫など、中小業者の経営や国民生活に密着した部分を支援することを重点にすべきです。  さらに、民間金融機関から融資を受けることが困難な業者等に、必要な資金を供給するという、公的金融の本来の役割を貫くべきです。環境問題、少子高齢化などの新しい経営環境は、公的金融の役割が高まっている面もあり民間金融とは異なる使命をあらためて確認し、金融審査その他すべての業務で貫くことが重要です。
 小泉内閣がすすめようとしている特殊法人の「見直し」は効率化・民営化が中心です。国民生活金融公庫がもつ、小口融資の独自の役割、蓄積された小規模企業融資のノウハウも否定して、他の公庫との統合も検討するとか、郵政事業の民営化まで狙っています。中小企業の七割以上は小規模企業であることや、金融機関は郵便局しかない自治体が全国に500以上もある実態をどう考えるのでしょうか。
 「効率よくもうかること」を基準にして融資審査をするとか、もうからなければ閉鎖・撤退する、大企業型への民営化は許されません。

3、信用保証協会のそもそもの役割とその発揮へ
 私たちは、「大企業に比較して信用力等の面で不利を負う中小企業の信用力を補完する」という、信用保証制度と信用保証協会が、この原則的使命をあらためて明確にして、中小企業者向け融資の円滑化に貢献することがますます重要だと考えます。「信用保証理念」では、「経営に真面目に努力しみずからの力で企業発展をはかる中小企業の埋もれている信用を発掘し」、「市中金融機関からの健全かつ円滑な金融を実現させ」としています。この理念にもとづき、保証した場合は金融機関の判断まかせにしないで、中小企業者の経営資源を発掘する立場に立って、実際に融資が実行されるまで力を尽くすことが重要です。また、すべての信用保証協会で、協会あっせん方式を軸とし、多くの業者がもっと使いやすくする保証制度の改善をすすめるべきです。国の保証協会運営費補助をもっと増やすことも重要です。
 貸し渋り対策として施行された「特別保証制度」は、積極的役割を果たしました。この制度では、借りた業者が返済できず、信用保険公庫を通じて信用保証協会が代わって返済する代位弁済(事故率)を10%と想定しましたが、全国平均では約3%という事故率にとどまっています。
 ところが、一部報道機関が「過去最高の代位弁済」などと報道したように、中小企業者への積極的な保証を行うことが悪いことであるかのような解釈があります。そして、全国の信用保証協会が共同出資して取り立て強化の株式会社を設立しました。これは本末転倒です。
 自己資本比率を第一にする金融検査や、ペイオフ制度宣伝もあって、金融機関の貸し渋りが依然として続いている今、信用保証協会が果たすべき役割は、中小企業者向け金融の円滑化にあります。倒産、失業の増大、個人消費の停滞という悪循環を中小企業の活性化で断ち切る上からも、ある意味では「代位弁済も信用保証協会の大切な役割」と位置づけた運用こそ重要です。

 保証協会債権回収株式会社は、極めて悪質な返済拒否業者に限った運用に徹するよう、厳しい監督が必要です。
4、地域金融機関を切り捨て、貸し渋りをつよめるペイオフ解禁には反対
 銀行が経営破たんした場合、1000万円を超える預金は保障しないというのがペイオフ制度です。わが国でペイオフ制度を導入することになったのは、アメリカの制度に習ってのことでした。アメリカでは、小規模銀行が倒産した場合、金融パニックを防止するために営業譲渡に道をひらくことが目的で、一定額以上の預金は保障しないことにし、一方、小規模銀行で利用者が多い小口預金者の預金は保護するということになっています。ヨーロッパではペイオフなど問題になっていないといわれます。
 日本では、金融パニックの防止ということよりも、「銀行が多すぎるので整理・淘汰する」ことに目的がすりかえられ、「自己責任で倒産しない銀行を選択せよ」という宣伝が先行しています。銀行は、生き残りをかけて、自己資本比率を高めるために、「貸し渋り」を強める結果になります。
 また、地方自治体なども地域の銀行への預託をやめる動きさえ引き起こしています。地方自治体の制度融資を根本から揺るがす問題にもなりつつあります。
 私たちは、大手金融資本に有利な金融機関の整理・淘汰・再編を目的にし、銀行側の情報公開が不十分で、しかも貸し渋り規制の何の対策もないといういまの条件のもとでのペイオフ解禁には反対です。

5、地方自治体の金融機関への指導
 自治体自らが、地域経済振興、住み続けられるまちにしていく上で、中小業者・住民とともに歩む金融機関を育成するという立場に立つことがもっとも重要な基本だと考えます。
 信用組合の指導・監督権限は都道府県知事とするのをはじめ、金融機関に対する自治体の指導・監督・立ち入り検査などの権限をつよめることが大切です。身近なところで機敏に中小業者や住民、金融機関に働く労働者の要求にこたえる自治体であることが重要です。
 自治体の職員のなかに、金融についての専門的知識や技能をもった職員を養成・保全していくことが欠かせません。国は、自治体の独自の融資制度等が発展するよう必要な支援を強化しなければなりません。

6、「国民が主人公」を貫いた金融改革国民会議の設置
 国の政策として、「国民が主人公」を貫いた「金融改革国民会議」を設置し、ひろく国民各層の合意にもとづいて国民本位の金融産業・金融制度の確立をはかるようにすべきです。
 ほとんどすべての国民が銀行、証券、生保、損保、ノンバンクなどの金融機関とさまざまにかかわりをもっています。この金融機関をどうするのかは、まさに国民的課題です。したがって、金融制度を審議する「金融審議会」など、現在の金融関係各種審議会を、大銀行・大企業代表や政府審議会常連の大学教授などを中心とする構成から抜本的に変えることを求めます。また、ひろく一般国民が参加できる公募制なども採用し、国民各層の代表で構成する「金融改革国民会議」を設置し、国民のくらしや地域経済を守る立場から金融制度のあり方について審議、提言を行う任務と権限があることを法律で定めるようにします。
 一方、全商連も参加し、全労連や金融関係労働組合、学者などで構成する、「国民の眼から金融問題を考える懇談会」が活動していますが、このような自主的な国民運動、研究活動の発展も重要です。こうした活動と「金融改革国民会議」の活動が相互に関連しあいながら、全体としてわが国の金融改革が国民の智恵と力ですすむ方向こそ、金融危機を打開する道であると確信します。

おわりに

 日本の金融改革の歴史と現状の見方や評価について、国民の中にさまざまな意見があります。
 しかし、中小業者や国民の要求、ねがいをないがしろにしてすすめてきた金融改革がすでに、行き詰まりや破たんに落ち込みつつあるということは、まぎれもない事実ではないでしょうか。今年の通常国会で銀行法改正が成立できなかったことで、店舗の開設での許可制が残るとか、銀行本体の信託業務ができないなど、大手銀行は経営戦略の練り直しを余儀なくされました。一方、経済産業省研究会は、民事再生法で再建途上の中小企業への運転資金融資へ、新制度創設などを提言しました。中小業者、中小金融機関、国民各層の被害実態に根ざした批判と怒りが政治を動かし始めています。
 1987年、旧大蔵省は「戦後初の金融大改革」として金融自由化に手をつけました。10年後の1997年、橋本内閣が六つの「改革」のなかの一つとして「金融改革」構想を発表し、歴代内閣の手ですすめられてきました。
 その本質は、日本国民の預貯金を投資信託などに振り向けさせることをカナメにした、「貯蓄優遇」から「投資優遇」の金融政策への転換です。しかし、株価の低迷は証券投資への国民の不信を高めただけでした。
 最近退官した大蔵省元銀行局幹部が、「実態への対応に不十分であった」と反省していますが、中小企業、労働者、国民生活の実態を無視した、日米金融資本と自民党、官僚主導の金融改革シナリオに未来がないことは明白です。
 しかし、銀行、証券、生保、損保、ノンバンクなどすべての金融企業は、「投資優遇の金融政策」の路線上での生き残りをかけて動いています。
 私たちの今回の提言は、国際的視野や、金融全般には触れていない面も少なくありません。それは、中小業者の経営と地域経済を活性化させることに軸足をおいての提言だからです。
 金融全体を視野にいれて、中小業者・中小企業団体のみなさん、金融機関の経営者や働くみなさんなど、広く各層の方々との対話、共同の研究や行動で国民本位の金融確立へ、ともに努力する考えです。

中小業者・国民本位の金融めざす新しい法整備についての提案

 中小業者・国民本位の金融システム確立のためには、現在の金融関連法の全面的な見直しが必要です。私たちは、地域経済振興と中小企業者向け金融について、少なくとも次のような法整備を行うことを提案します。

1、「地域経済振興及び中小企業金融円滑化法」(地域再投資法)の制定

 アメリカの「地域再投資法」の日本版の法律として、新法制定を提案します。この法律の骨格は以下のとおりとします。
1、この法律の目的は、中小企業に対する資金供給の円滑化をはかり、地域経済を振興させることとします。
2、すべての金融機関は地域経済への貢献義務を有することを明記します。
3、地域経済貢献度の規定を設けます。国、自治体は「地域経済貢献度判定委員会」の意見を聴いて金融機関別に、地域経済貢献度を公表します。
4、国、自治体は金融機関に対して、地域経済貢献度を向上させるための指導・勧告を行うものとします。
5、信用組合の指導・監督は地方自治体に移行するほか、地方自治体に、金融機関に対する指導・調査権限を与えます。

2、「民事再生法の特例措置」の制定

1、この特例措置の目的は、中小企業者の借金返済の免除、返済額の軽減をはかり、中小企業を活性化させることとします。
2、「民事再生法」運用に特別措置規定を設けます。
3、この規定にもとづいて、中小企業者は、銀行に対する債務の返済について、経営の存続に重大な影響を及ぼす等の理由を示して、債務返済額の一部の免除、または一定期間の無条件延期を申請できるものとします。

3、「金融基本法」の制定

1、この法律の目的は、金融機関の公共的役割と遵守事項を定め、国民経済の発展に資することとします。
2、金融機関はその業務の全てにおいて公共的責任があることを規定します。
3、中小企業融資について、@担保・保証人を不要とする Aあらゆる差別の排除 B税の完納を「要件」としない、の3原則規定を明記します。
4、反社会的行為への規制規定を設けます。
5、情報公開義務を明記します。
6、融資金利の引き上げ、保険給付の引き下げなど契約の変更について、契約者の意思が反映されるルールに関する規定を設けます。
7、金融機関への検査について、中小企業者等も参加した「検査マニュアル制定委員会」の設置を規定します。
8、内閣総理大臣の諮問機関として、「金融改革国民会議」を設置し、国民の意思による、国民のための金融改革の建議・推進をはかります。

4、投機マネーに対する規制=独占禁止法の改正

1、独占禁止法に、禁止条項として、「経済かく乱行為」を設けます。
2、投機マネーによる企業の買収、売却などの行為を経済かく乱行為として規制することとします。

5、政府系金融機関等に関する法改正

1、政府出資特殊法人について、中小企業・国民生活支援を重点とすることを明確にします。
2、国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、住宅金融公庫について、一般会計出資による資本金の増額をはかります。法定金利を引き下げます。
3、資本金100億円を超える企業に対する貸出が、貸出残高の過半数を占める政府系金融機関、政府出資特殊法人に対する一般会計出資・支出の減額規定を設けます。

6、ヤミ金融、高利貸金業への規制

1、貸金業法を現在の「登録制」から「許可制」にし、罰則、監督体制も強化してヤミ金融、高利貸を規制します。
2、貸金業者に対する情報公開義務規定を設けます。
3、出資法、利息制限法の上限利率を大幅に引き下げるとともに、二法の上限利率を同率とします。
4、出資法の「日掛け金融」への特例を廃止するほか、関連諸法の高金利容認条項を廃止、罰則を強化します。
 
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