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  トップページ > 中小施策のページ > 政府(官庁など) > 全国商工新聞 第2913号 2月 8日付
 
中小施策 政府(官庁など)
 

「同居親族は労働者」の画期的判決

 山梨県甲府地方裁判所は1月12日、同居する親族が労働基準法の労働者にあたるかどうかが争われていた裁判で、「労働者にあたる」という判決を言い渡しました。国側は1月27日、控訴を断念し、療養補償給付、休業補償給付の支払いを命じた判決が確定。営業に従事する親族一人ひとりの人格を認めるという画期的な内容で、所得税法第56条廃止を求める運動にも大きな影響を与えるものです。

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けがを克服し元気に仕事をする正範さん
 裁判でたたかっていたのは山梨県北杜市の左官工・中村正範さん。父・正夫さんが経営する左官業の会社で働き、両親と同居しています。
 06年9月、長野県原村の別荘の工事現場で作業中、2階ベランダから落下し、腰椎骨折、脊椎損傷の大けがを負い95日間入院しました。正範さんは甲府労働基準監督署(労基署)に06年10月に療養給付を、07年1月に休業給付の申請を行いましたが「労働者にはあたらない」と不支給が決定されました。
 
 通達をタテに労働者性否定
 山梨県労働者災害補償保険審査官、労働保険審査会も審査請求を棄却。納得できない正範さんは09年2月、甲府地裁に提訴。「同居親族は労働者といえるか」が争われました。
 労基署や国は、労働基準法の適用除外規定(第116号2項)をもとに出された通達(基発第153号)にあたるとして「同居の親族は事業主と同居及び生計を一にするもので、原則として労基法上の労働者には該当しない」と、労働者性を認めませんでした()。
 これに対して正範さんは「除外規定は同居以外の使用者がいれば労基法が適応される」と主張。別居して一緒に働いている兄の正明さんがこれに該当するとしました。
 判決は次のような判断基準を示しました。「労働基準法116条2項は、同居の親族のみを使用する事業を除外する規定であり、同居の親族を除外する規定でないことは言うまでもなく、さらに、同居の親族の労務の提供実態はさまざまであるから、実質的に使用従属性の有無を判断するのが相当であり、原則として労働者性を否定するという被告の解釈は採用できない」
 その上で、通達153号の解釈、適用の誤りを指摘し、「上記のとおり原告は、労働基準法上および労災保険法上の労働者に当たることは明らかである」と結論付け、正範さんの主張を認定。使用者の下で労務提供していたか(使用従属性)、報酬の支払いが労働の対償だったか(報酬の労働性)の「2要件が満たされれば、同居親族も原則労働者である」として、不支給処分の取り消しを命じました。
 
 他の従業員と変わらず働く
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力を合わせ裁判をたたかった中村さん一家(左から、正明さん、千代子さん、正範さん、正夫さん)
 判決を踏まえ正範さんは「友人たちから『良かったね、すごい』と連絡が。あきらめず頑張ってよかった」と話します。正夫さんは「息子は毎日、他の作業員と変わらず働いている。なぜ労働者ではないのか。納得できずにいたので本当に良かった」と安堵の表情に。母・千代子さんは「大手術で、一時は半身不随になりはしないかと心配しました。仕事に復帰できるほどに回復し、裁判も認められ安心しました」と語ります。
 山梨県商工団体連合会の一瀬正副会長など役員、事務局は1月22日、裁判を支援してきた「働くもののいのちと健康を守る山梨県センター」の保坂忠史事務局長と一緒に、甲府労働基準監督署へ要請行動を展開。「自営業者と家族の人権を尊重し、裁判の3年4カ月のたたかいの重みを受け止めて判決に従ってほしい」と控訴しないよう訴えていました。この結果、国は1月27日、控訴を断念、判決が確定しました。

 56条廃止 励ます
 訴訟代理人・弁護士 関本立美さん

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 労働基準法(労基法)や労災保険法を正当に解釈した大変意義ある判決です。提出した資料は母・千代子さんが作ったもので、事実関係に間違いはなく正当なものでした。同じ所で働く別居の兄には労災が認められ、同居していることだけで弟には認めないのはおかしなことです。
 国は、労基法より通達を優先し、定義を狭くしています。多様な形態の「家事使用人」をすべて切り捨て、認めないようにしています。今回の判決は家族従業者の労働者性を認めたもので、労基法に照らして画期的な判決です。
 家族というだけで、妻や子どもの働き分を認めない所得税法第56条を廃止する運動を励ますものだと思います。国は家族従業者一人ひとりの人権を認め、家族労働に光を与えるべきです。判決を受け止め、通達を見直してほしいと思います。

  労働基準法(抜粋)
第116条 (1項略)
2 この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
 
〈同居の親族〉
 同居の親族は、事業主と居住及び生計を一にするものであり、原則として労働基準法上の労働者には該当しないが、同居の親族であっても、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において一般事務又は現場作業等に従事し、かつ、次の(1)及び(2)の条件を満たすものについては、一般に私生活面での相互協力関係とは別に独立した労働関係が成立しているとみられるので、労働基準法上の労働者として取り扱うものとする。
(1) 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
(2) 就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に、(1)始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及び(2)賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること。
(昭54・4・2基発第153号

   
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