デュエットも談笑もカラオケ選曲も禁止!? 商売つぶす風営法にスナックのママ怒る
「デュエットしたり、談笑したり、カラオケの歌を選曲したら、風俗営業法(風営法)違反?!」―。営業中のスナックに突然、複数の警察官が立ち入り、客と談笑しているママを「風営法違反」と決めつけ、始末書を書かせ、罰金を科す事例が相次いでいます。「スナックは街のオアシス。いかがわしい行為をしているわけじゃない」。ママさんたちの怒りは収まりません。
京都・夜の街に異変
警察が突然来店し「接待」行為を処罰
「スナックは心を癒すオアシス」と話す増田瑞子さん(中央)と右京民商の事務局員 「風営法の許可を取っているのか」。警察官2人が京都市右京区内で営業するスナック「Y」を訪れたのは昨年10月2日午後11時40分過ぎでした。「12時にはお客を送り出し、店を閉めることにしていますが、たまたまその時はお客が6人ほどいて、女性従業員2人がボックス席に座って話していたんです」。ママの増田瑞子さんは振り返ります。
「風営法の許可は取っていない」と伝えると1カ月後、警察から呼び出しを受けました。2年半ほど前、警察が店に立ち入りした際は「12時を過ぎたらだめですよ」と注意されただけでした。
取り調べでは、生年月日、保健所の営業許可書や従業員名簿の有無などについて聞かれ、警察官からこう言われました。「風営法の許可を取らずに接待したら犯罪なんですよ」
カラオケを楽しんでお客さんの愚痴も聞いて元気になってもらう。そのどこが犯罪なのか。警察官が説明した「接待」の内容は、増田さんをあぜんとさせました。▽カウンターから出てボックス席に座り、お酌し談笑したら接待▽カラオケでデュエットしたら接待。拍手したりほめたりしたら接待。歌をママが入力したら接待▽お客とちょっと踊っても接待―。
「喫茶店でも、うどん屋さんでも、お客さんと話しているじゃないですか。なぜスナックはだめなのか。だいたい、風俗営業という言葉がイヤ。私たちはいかがわしいことをしているんじゃない」。増田さんの怒りは収まりません。
さらに警察は反省文を書くことを増田さんに迫り、「私は悪いことをしていない」といったんは拒否したものの、警察官の書いた下書きに署名。そして「接待行為はしないとの徹底を図り、お客には接待行為はできないことを1カ月間告げる」ことを内容とする指示処分を受けました。
増田さんの怒りに火をつけたのが、風営法許可申請の手数料だけで2万4000円もかかったこと。「こんなことをやっていたらスナックをやる人はいなくなる。もう営業妨害ですよ」
略式命令で罰金50万円
罰金処分を受けたスナックのママもいます。山科区内でスナック「バー・ブー」を経営していた長砂妃度美さん。
警察が店に突然入ってきたのは昨年の10月末。深夜12時10分を回ったころでした。この日は土砂降りの雨で、お客は長砂さんの友人ら2人に、店の女性従業員2人。店を閉める準備を始め、友人たちと仕事の話をし、従業員も食事をしていた最中でした。
ソファ席に座っていた友人たちの隣に座って談笑し、お酒を提供していたことが「接待」とされ、風営法違反に問われたのです。
営業中の証拠としてか、伝票の写真を撮られ、後日の出頭を命じられました。長砂さんは過去2回、警察の立ち入りを受け、調書も取られましたが、いずれも注意だけで終わっていました。
ところが今回は、指紋も取られ、写真撮影は左右正面。加えて身長、体重などの計測も。「逮捕もできた」と聞かされた事情聴取は5時間近くに及びました。その後、起訴され、罰金50万円の略式命令が出されました。
長砂さんは罰金を払い、移転を考えたものの資金面から、現在の場所で食事を中心としたダイニング「ブーブー」に業態転換し、今年1月、開店にこぎつけました。
「法律で決まっているというけど、なんで談笑したりすることが罪になるのか。カラオケで拍手をしたら罪になるのか。うちの店は地域密着の店で、ママ友も来るし、地域の人たちや仕事の交流の場にもなっている。警察の言うとおりになったら、商売にならない」と怒りをぶつけます。
商売の自由を奪う風営法の見直しを
「風営法の許可をとれば接待できるではないか」。こんな声も聞こえてきます。ママさんたちに共通するのは、性風俗を想起させる嫌悪感と、当たり前のことをして何が悪いのかという反発です。加えて、営業時間の問題が発生します。信用保証協会の保証対象から外され、融資も難しくなります。
風営法の許可を取れば営業時間は深夜12時まで(地域によっては午前1時)。「11時ごろに来たお客さんに12時に閉めますと言えないし、カラオケが入力されているときに途中でやめてとはいえない」と言います。一方、深夜酒類提供飲食店として警察に届け出れば、日の出まで営業できるものの「接待」行為はできず、集客にも大きな影響が出てきます。
風営法の目的は「善良な風俗と清浄な風俗環境を保持し、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止すること」です。
なぜ、カラオケに手拍手して盛り上げたり、客の横に座ってお酌し談笑したりすることが罰せられるのか。その根拠にされているのが、警察庁の「解釈運用基準」(左の表)です。
同基準では「接待」を「特定の客または客のグループに対して単なる飲食行為に通常伴う役務の提供を超える会話やサービス行為」と定義。具体例として「客の近くにはべり、談笑の相手となる」ことや「客の歌に手拍子を取り、拍手をし、もしくはほめはやす行為」などを列挙しています。
この風営法が「時代遅れ」と批判されたのが、京都を発祥としたダンス規制撤廃運動(12年)でした。「風営法でダンスを規制するな」の声が上がり、15年には風営法の改正にまでつながりました。
運用基準の乱用やめよ
風営法からのダンス規制撤廃を訴えてきた中村和雄弁護士は「警察の立ち入りは、6月の改正風営法の施行を前に、風営法の許可を取らせることで、警察権限の拡大を狙っているのではないか」と指摘。その上で「警察庁の『解釈運用基準』は、政令でも省令でもなく、単なる『通達』。警察庁が勝手に作ったもので法のチェックを受けたわけでもない。実体にも合っていない。風営法の趣旨からいっても、基準の乱用は許されない」と強調します。
地域に根付き、地域のオアシスとなってきたスナック文化。時代遅れの風営法や運用基準の見直しこそ求められています。
全国商工新聞(2016年4月11日付) |