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  トップページ > 業種のページ > IT・サービス > 全国商工新聞 第3317号6月25日付
 
わが業界・地域の抱負と課題
 

宅配個人ドライバー 待遇改善進まず悲鳴

収入伸びず過労が慢性化 適正取引へルール確立を
 物流は「動脈」にもたとえられるように、決して途切れさせてはならない社会インフラです。通信販売の利用拡大やネットを利用した個人売買の増加などにより宅配便取扱数が急増。その上、輸送の小口多頻度化や時間指定が進み、代金収受や届け先での付帯作業など運送業者の業務は複雑化しています。ドライバーの待遇改善は進まず長時間過密労働が恒常化し、担い手不足が深刻な問題に。「宅配クライシス」が叫ばれる軽貨物運送業をめぐる現状と課題をリポートします。

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取扱数の急増が背景に
個人事業主が大手を支える
 宅配取り扱い個数では、ヤマト運輸が第1位で、佐川急便、日本郵便のゆうパックと続き、この三者で国内シェアを独占しています。国土交通省によれば、2015年の年間宅配個数は約37億個に達し、そのうち2割が再配達になっているとのことです。
 宅配大手は自社だけでは増加し続ける配送を賄いきれないため、中小の事業者に配送を業務委託しています。
 その担い手が個人事業主である軽貨物運送業者(以下、軽貨物業者)です。軽貨物業者は約16万者、業界大手のヤマト運輸の車両4万400台に対し、軽貨物の車両数は約25万台にも上ります。軽貨物業者は、開業が容易で運輸支局への届け出だけで済むため、昨年1年間で1万8000台が増加しています。
 軽貨物業者は、大手の下請けなどスポットで仕事を確保していくか、アマゾンなどのネット通販や特定の事業所のチャーター便となるかなど選択が迫られます。料金システムには、車建て運賃(1日貸切運賃)、個建運賃(1個幾らの歩合)などがあります。

12時間労働で生活は苦しい

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取引ルールの確立などを訴える東京・北沢民商の石原さん

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街の各所に設けられている大手宅配会社の配送センター

 東京都世田谷区で軽貨物事業を営む石原英次さん(北沢民商・副会長)は、この業界40年のベテラン。週3回は保険会社のデータ運びをし、2日は大手の配送請負として働いています。
 「3月の運賃収入は51万9825円。高速料金の立て替え払い約10万円を引くと手元に残るのは41万9765円。ここから燃料費約6万円、車の原価償却、保険料などを引くと手取りは約30万円に。朝4時50分から夕方4時半頃まで約12時間働いての収入がこれだけ。まともな生活ができるような運賃になっていない」と憤ります。
 1日単位での請負料金は1万6000円に過ぎません。個建でもほぼ同額です。都内では500世帯程度を1エリアとして設定。ベテランでも1日に配達できるのは100軒から130軒。そのうち70軒は夜になってようやく配達ができるような状況です。1個の配送料金は145円で、130個配達できても1万8000円程度にしかなりません。「再配達率は高く、業務の複雑化とともに慢性的な過労の原因になっている」と指摘します。
 「あるドライバーは『2万5000円以上になると誘われて入ったが、実際は1万7〜8000円にしかならない』と嘆いていた。その上、夜は9時、10時までと拘束時間も長い。うたい文句と実態にはだいぶ隔たりがあるように感じた」というアマゾン取引業者の話を紹介します。
 石原さんは「軽貨物業者の処遇改善のためには、時間コストやサービスコストも料金体系に反映させ、8時間働けば、まともな生活ができるような水準まで配送料金を引き上げさせること」と強調。その上で、「大手が4回までは再配達義務を課すなど荷重労働の原因になっている再配達システムも見直させる必要がある。ピンハネの原因になっている下請け多層構造の改善や適正取引のルールの確立も必要」と指摘します。

業者が団結し未権利克服を
 国土交通省は、こうした中、「総合物流施策大綱」(2017年〜2020年)を閣議決定。「宅配事業とEC事業の生産性向上連絡会」を立ち上げ、効率的・持続的・安定的に機能する物流のあり方への検討を開始しています。
 石原さんは「政府はこれまでも適正な運賃収入が得られるような環境を整えると言ってきたが、末端では運賃は上がっていない。効率化で運賃を下げることしか考えてこなかった資本の横暴に立ち向かうためには、大手のドライバーも軽貨物業者も一緒に団結し立ち上がる必要がある。また、輸配送の共同化など中小が担える物流の効率化も検討が必要」と改善方向を示します。
 多くの軽貨物業者は、未権利状態でしかも法的な問題や税金の知識も不足している社会的弱者で、いわば「軽貨物プアー」。「民商に加入を呼び掛け、将来性をもてるような業界にするため力を合わせようと呼び掛けていきたい」と力を込めます。

全国商工新聞(2018年6月25日付)

   
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