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  トップページ > 業種のページ > 料理・飲食 > 全国商工新聞 第3313号5月28日付
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業種 料理・飲食
 

高齢化社会の憩いの場 介護スナック・竜宮城

 日替わりママさんが登場するなど、若者の起業の場としても新たな注目を集めている「スナック」。高齢化社会における憩の場として「介護スナック(R)」も登場しました。「スナックは地域コミュニティーのドア」と話すスナック研究会代表の谷口功一・首都大学東京教授が、2016年にオープンした「介護スナック・竜宮城」(神奈川県横須賀市)を訪問、リポートを寄せていただきました。

「楽しげな様子にやりがい」 経営者の佐々木貴也さん
完全にバリアフリー化

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「介護スナック」について語り合うスナック研究会代表の谷口教授(右)と、「介護スナック?」を経営する佐々木貴也さん

 日本の人口構成は、2065年には総人口の3人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上の高齢者になると推計され、わが国の超高齢化は待ったなしの状態にある。そのような中、最近登場したのが「介護スナック(R)」だ。その発祥は、横須賀市・追浜にある「介護スナック・竜宮城」である。
 経営者は佐々木貴也さん。横須賀出身の佐々木社長は鍼灸の学校を出て資格を取ったが、現在では鍼灸マッサージの治療院以外にも、遺品整理、大型家具処分/片付け代行、中古医療・介護器具の買い取り、車両販売、デイサービスのコンサルティングなどを多角的に行う「株式会社あたた」を経営している。「竜宮城」も、このグループの業務として行っている。
 竜宮城の外観は、古びた商店街の中では特に目をひく。入り口の扉には押しボタン式の暗証番号鍵が設置されている。高齢者施設や家族から預かったお客さんが勝手に店の外に出て行かないようにするための対策だ。道路に面した1階の店舗だが、完全にバリアフリー化し、店内には目立たないように、しかし要所には必ず手すりがついている。
 カウンターも車いすの高さに合わせて設置されており、テーブルは立つ時などに誤ってひっくり返ったりしないように、しっかりとボルトで床に固定されている。
 トイレも車いすに完全対応で、オムツ交換台も設置。また高齢者の場合、用便に時間がかかる場合も少なからずあるので、店内にはトイレが二つ設置されている。

飲酒量は事前に決めて

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飲んで歌って楽しんでもらうために、ミラーボールも設置された部屋

 利用者は65歳以上限定なので、彼らが現役だったころ、おおむね昭和40年代くらいのスナックをイメージした内装になっている。カウンターやその奧に並ぶ酒類は豊富で、高級な洋酒や地方の地酒なども並んでいる。利用者は女性の方が多い。地方から東京などに出て来た人たちも多く、地方の酒を置いているのは、とても喜ばれるとのことだった。
 飲酒に関しては、事前に家族や施設との間で詳細な打ち合せを行い、“誰々さんには何ミリリットルまで”と、きちんとした酒量管理を行い、また、誤嚥(ごえん)を防ぐため、人によっては薬を飲む際に用いるとろみ付けなどを使って酒をつくったりもしている。
 カラオケも、あえて古い機種を入れている。利用者に好まれる「軍歌」や古い歌が入っているからだ。こういう風に安全を確保しつつも、それを感じさせないように楽しんでもらえる環境を整えている。
 昔、現役時代にスナックに通っていたころの夜の街に繰り出す少しばかりの「やんちゃな気持ち」を思い出してもらい、竜宮城にいる間だけは、たとえ店外に出たら高齢者としての日常が戻って来るとしても、「浦島太郎」が竜宮城で楽しんだように、若やいだ気持ちになってほしいということだった。もうけが目的ではなく、いかに楽しんでもらえるか、なのである。

専門のスタッフを配置

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立ち上がるときに転ばないように、テーブル、いすは固定化している

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トイレは二つあり、一つにはオムツ交換台も設置

 この竜宮城は「株式会社あたた」という、従業員30人ほどを抱える多角的な介護グループ企業の一角だが、スナック従業員も、利用者の要介護の程度に合わせて、手配し、店に入ることになっている。
 酒量管理以外に介助なども必要なことから、店内にいるスタッフは、場合によっては看護師、介護士、マッサージ師などから構成されることもある(通常おおむね4人ほどで運営している)。
 スナック事業を始めてから従業員の定着率も高くなり、スタッフのモチベーションも上がったとのことである。介助をする場合には、やはり力仕事ということもあり、男性の介護士がスタッフとして入ることも多々あるとのことだった。
 竜宮城の料金は、2時間「飲み放題、食べ放題、歌いたい放題」の8000円(一人の利用者)で、その中には往復の送迎料も含まれている。この金額に対して「高すぎる」「介護保険を使っているのではないか」などといった批判もネット上で見られた。しかし正確には最初の一人の利用者が8000円で、たとえば同じ施設から5人が来店した場合には二人目以降の4人は一人3000円で利用でき、また、料金は介護保険とはまったく関係なく完全に利用者の自費によるものである。
 8000円はいかにも高いと言い募る人もいるかもしれないが、実際の利用者には、要介護5の寝たきりの人や末期がん(ステージW)の人もいて、そういう人たちが本当にまれな非日常として、かつての日常だったスナックを楽しみたいという願いを、万全の態勢でかなえるものである。また、家族の側からも、納得のゆく価格設定である。預ける側の家族のある種の後ろめたさを払拭するため、値段に見合ったそれなりの華やかさを店内にも持たせている。
 利用者の受け入れは完全予約制の下、事前の綿密なリサーチに基づいて行われ、お客さんの体調に合わせた極力無理のない、もっとも楽しんでもらえる形で行われている。せっかくの誕生日だからという予約でも、本人の具合が悪ければ、別の日に無理のないように調整したり、細やかな心遣いに基づいた利用者(予約)のコントロールを行っている。
 佐々木社長は、デイサービスの介護事業も営んでいるが、竜宮城のコンセプトは「寝たきりにしないこと、楽しんでもらうこと」であり、リハビリなどをしている介護事業の利用者に頑張ってもらい、ポイントがたまると竜宮城に無料でご招待、といった形での利用も促している。

法的な問題もクリアし
 佐々木社長自身、スナック好きであり、普段は近くの横須賀中央駅方面などで飲んでいるとのことだったが、なぜ「介護」+「スナック」だったのかという疑問に対しては次のように答えている。「自分の親だったら」という視点だ。「高齢者なのだからワガママを言って人の手を煩わせずおとなしく家にいろと言い切ってしまっていいのか」と。毎日、毎週というわけではなく、数カ月に1回、竜宮城に来る利用者の心から楽しげな様子を見ると、やりがいを感じるとのことだった。
 また、「介護スナック?」という史上初の試みは先例がなく、法律上の間違いの起きないように、地元の警察署まで出向き、懇切丁寧に店の意図・コンセプトを説明した上で指導を仰いだ。
 スナックは通常、「深夜酒類提供飲食店」の届けを出して営業するものだが、竜宮城の営業時間は先に述べた通り午前から夜8時にかけてである。この届出は必要ないが、利用客の介助が必要なので、スタッフが客の隣に座ることとなる。
 しかし、これは風営法上の「接待」行為にあたるのではないか。そうなるといわゆる「風俗営業」の届けを出さなければならないのか。しかも風俗営業の許可に関しては営業時間帯は関係ない。ありとあらゆる事態を想定した上で、警察署に確認を取り、「通常の飲食店の届けだけで大丈夫」というところに収まったのだった。

個人店の強みを生かし
 このようにして始まった「竜宮城」は、最大15人、1日3サイクルまでの利用者を受け入れることができる。多角化した介護関連グループ企業であるために、送迎車、その車検、介護用品も自前で賄え、また、従業員も既に述べた通り、介護士をはじめグループ内で調整することができる。いわば、自給自足の環をなしている。
 テレビなどで竜宮城が紹介されて以来、大手企業も含めさまざまなところから、そのノウハウを相談されることが多くなったという。実は、この「介護スナック?」という名称は佐々木さんによって既に商標登録されている。商標登録までした意図は、“この名前を使って高齢者を食い物にするような悪徳スナックをやらせたくない”という思いがある。
 現在フランチャイズも募集しており、多くの申し込みがあるが、なかなか難しい面もあるという。なぜなら先に記した通り、この竜宮城をめぐる経営環境は一種の自給自足の環の一部なのであって、介護スナックだけを単体で成立させるのは難しい面もあるからだ。
 また、大手企業による経営の場合も、結局、スナックというものは、そもそもその店のママやマスターの個人的な人柄で成立している面が大きく、大資本の組織は、そもそものところ、そういうものと今ひとつ相性が悪いのかもしれない。
 むしろ個人経営のスナックのママが、「認知症の人だけ」「身体障害の人だけ」といった形で対象利用者を絞った上で対応できるように営業した方がうまくゆくかもしれないとのことだった。

◇    ◇

 春の昼下がり、1時間以上、熱気に満ちた佐々木社長の話を聞いて、口先だけの善意などとは懸け離れた、優れた経営者が熱意をもって、いまだかつてなかったものを現実にする力に興奮した私は、前泊した横須賀中央駅近くの米が浜のスナックで歌ったクレイジーケンバンドの横須賀の歌『タイガー&ドラゴン』(トンネル抜ければ、海が見えるから)を思い出しながら、歌とは逆のコースを辿ってトンネルを抜け、帰路に就いたのだった。

全国商工新聞(2018年5月28日付)
 
   

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