リニア新幹線は止められる
環境と生態系を守ろう

全国商工新聞 第3382号2019年10月21日付

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リニア新幹線を考える 静岡県民ネット 共同代表 林 克さん

 「JR東海のリニア中央新幹線、2027年開業は断念すべき」─。2014年10月17日、国土交通大臣の工事実施計画の認可を受けていますが、リニア建設の最大の難所であるとされる南アルプストンネル掘削は着工できていません。静岡県の川勝平太知事が着工を認めないためです。リニア建設のカギを握る静岡県で「リニア新幹線はストップできる」と運動を進める「リニア新幹線を考える静岡県民ネット」共同代表・林克さんに「何が問題なのか?」を聞きました。

大井川 水枯れ現実味

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水量が減り、かつての面影を失った大井川

 リニアは英語で「線形」を意味し、基本的に直線で走行するため、軌道はほぼまっすぐで86%がトンネルです。静岡県最北部の南アルプスを貫通するルートで、水をためている破砕帯を切断するため大井川水系の「水枯れ」を起こす危険があります。江戸時代には、「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」とうたわれたほど、大井川は水量の多い川でした。しかし、今は中部電力、東京電力、中下流の利水団体などにより「一滴も残らないほどの利水権」が設定され、80年代には水力発電所の建設により水量が減少。「水返せ運動」が起き、毎秒3トンの水を返させた歴史もあります。それでも水量が減っています。大井川鉄道に乗ってみるとよく分かりますが、大井川にかつての面影はありません。
 2013年、JR東海は環境評価準備書で「トンネル工事で大井川の流量は毎秒最大で約2トン減少する」と予測しました。これは、藤枝市、島田市、掛川市、焼津市、吉田町、袋井市、菊川市、牧之原市、御前崎市の下流8市1町、63万人分の水利権量に匹敵するものです。JR東海が行った山梨実験線の工事でも水枯れは現実に起きており、中下流域自治体が危機感を持つのは当然です。
 川勝知事は、これを踏まえ、2014年「工事中の湧水は戻してほしい」と要求。2018年10月にJR東海が「全量戻す」ことを約束し、具体的な手立ての協議に入りました。
 県側から「水資源の確保等に関する質問書」が提出され、JR東海との間で質疑、協議が進められました。ところが、そのさなか、JRが「全量戻すとは約束していない」という爆弾発言を行い、会議は紛糾しました。具体的には、山梨工区から県境を越えて先進抗を掘り進め、静岡工区とつながるまでの湧水は戻さないと述べたのです。湧水は、トンネルの傾斜に沿って、静岡側から山梨・長野に流出します。工事では、映画「黒部の太陽」で描かれたような鉄砲水も出ます。「県外流出を完全に防ぐ現実的な対処はなかなか難しい」という本音が出されたのです。
 山梨県境付近にある畑薙山断層は800メートル程度の幅があり、南アルプスで一番多く水を含んでいると考えられる破砕帯です。山梨側に水が流失することにより、大井川の水源が枯れるのではないかとの危惧が現実味を帯びてきました。

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知事はぶれずに対応

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リニア工事で出される土砂置き場の予定地

 9月9日にJR東海は「最終回答書」を県に提出しましたが、肝心の流出問題については「今後話し合う」とし、問題を先送りしています。
 静岡県知事は、河川法に基づく許可権限を持っています。南アルプス貫通トンネル25キロのうち、静岡県内を通る10.7キロは大井川の本流と支流の地下400メートルを通過します。地下であっても「河川に建設させる工作物」であり、知事は「治水または利水上支障を生じないか」を審査し、許可・不許可を出せるのです。川勝知事は「水や環境問題の解決がすべてで、対価は求めていない」と条件闘争を否定しており、ぶれてはいません。
 南アルプスの破砕帯を通らないように「ルートを変えれば済む」という話もありますが、そうなると一から環境アセスをやり直す必要があります。JR側が知事の決定に異議を申し立てるにしろ、紛争の長期化は不可避です。
 残土問題も深刻です。トンネル工事から出る残土は東京ドーム約50杯分という膨大なものです。静岡工区では、南アルプスエコパークのど真ん中にあるカラ松林を伐採して積み上げる計画です。希少な生態系を破壊するばかりか、大井川の川幅を狭くし、新たな災害を発生させる危険も出てきます。

地方の衰退止めよう

 リニア計画は、安倍首相が進める国土計画「国土のグランドデザイン2050」の中で、東京圏、名古屋圏、大阪圏をひとつの都市圏として形成するスーパーメガリージョン構想の最も主要なツールとして位置づけられるものです。東京一極集中はさらに進み、地方の衰退は一層進みます。静岡ばかりか多くの地域にとって「百害あって一利なし」でしょう。
 静岡県民はリニアについての県の対応について、「支持」が60%、「支持しない」が18%(静岡朝日テレビ世論調査、8月24日)と基本的に支持しています。問題は、知事を孤立させない国民世論をどうつくるかです。事業費10兆円のリニア計画がもたらす多くの問題を理解すれば、国民世論も変わるはずです。今からでも間に合うのです。環境破壊のリニア超巨大事業の問題点を急ぎ、知らせていきましょう。

リニア中央新幹線

 超電導磁力で車体を地上10センチに浮上させ、時速505キロで東京・品川から愛知・名古屋間を40分、品川・新大阪間を1時間余りで結ぶ計画です。長大トンネルなど大規模工事に伴う河川の水枯れ問題や残土問題のほか、電磁波問題、ずさんなアセス、難工事と採算性の問題、立ち退き問題、ウラン鉱床問題など、さまざまな問題が指摘されています。

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