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  トップページ > 震災情報のページ > 全国商工新聞 第2994号 10月10日付
 
 

再生可能エネルギーが地域を変える/環境エネルギー政策研究所所長・飯田哲也さんに聞く

Photo 風力発電所を進める岩手県葛巻町

 東京電力福島第一原子力発電所の事故後、多くの住人や中小業者が苦しめられています。にもかかわらず、政府は原発稼動を進めようとしています。世界では脱原発、自然エネルギーへの転換が勢いを増しています。政府の「エネルギー基本計画」審議委員にも選ばれた「環境エネルギー政策研究所(ISEP)」所長の飯田哲也さんに自然エネルギー普及の可能性について聞きました。再生可能(自然)エネルギー問題は、この特集を第一弾とし、本紙に随時掲載します。


―福島第一原子力発電所の事故後、再生可能な自然エネルギーに注目が集まっています。

Photo 自然エネルギーについて語る「環境エネルギー政策研究所」所長の飯田哲也さん

 政府はこれまで、原発は「安全でクリーン」と宣伝し、国家をあげて原発を推進してきましたが、それが間違いであったことが証明されました。
 ISEPは2000年の設立当初から、地球温暖化とエネルギー危機問題などを中心に研究し、自然エネルギーや省エネルギー推進の政策提言、地方自治体へのアドバイスなど幅広い分野で活動を行ってきました。今回のような重大事故が起きる前に、持続可能な自然エネルギーをベースとする社会への転換が必要だったと思います。

―政府は、原子力の発電コストの安さを強調しますが…。
 経済産業省の試算によると、電源別の1キロワット時当たりの発電コストは水力11・9円、石油火力10・7円、石炭火力5・7円に対し、原子力は5・3円とされています。
 しかし、この原子力の試算は、地元自治体に払う補助金や技術開発費などが含まれておらず、それらを料金原価に算入すれば、10円を超えることが分かっています。政府が意図的に安い試算をしているのです。
 さらに、今回の事故による支出や損害賠償金が加わると、25〜35円と、とてつもなくコストが跳ね上がります。化石燃料による火力発電のコストも、10年後には5倍になります。
 自然エネルギーも技術開発などで一時的には発電コストが上昇しますが、再生・持続可能なため、いずれはどんどん下がります。将来の安定的な電源として、100人いれば99人は自然エネルギーを選ぶのではないでしょうか。

―自然エネルギーで現在の電力を補えますか。
 東京電力の計画停電を受けて、電力を心配する声も聞かれますが「節電=我慢」という構図が間違っています。豊かな生活をした方がエネルギー消費量が減るというのが、環境エネルギー政策の常識です。例えば、電球をLEDに取り替えるだけで消費電力は半分以下に。住宅の高断熱技術を使えば、エアコンの浪費を抑えられるなど、今ある最新の省エネ技術を使うだけで、エネルギー生産性は4倍になるといわれています。
 緊急時の我慢は必要かもしれませんが、中長期的には豊かさを追求しながら、エネルギー効率を高めることで、大きな省エネ効果が得られます。その上で、次世代のエネルギーを考えなければなりません。

日本の自然エネルギーは大きな可能性を持っている

 日本は、太陽光、風力、地熱、バイオマス、小水力のいずれも潜在力が非常に高いといえます。
 太陽光発電に関しては、技術レベルは世界トップクラス。海に囲まれ風力も有利で、山の森林・川なども大いに利用できます。現在の電力を自然エネルギーで供給することは十分に可能です。

―自然エネルギーを普及させるにはどうすればいいのでしょうか。
 国による電力の「全量買い取り制度」の実現が不可欠です。これは、現在の余った電力だけを買い取る制度とは異なり、太陽光などで発電したすべての電力を売電できるという制度で、設置者のメリットが大きく、普及が進むと考えられています。
 実際、ドイツ、スペインなど全量買い取り制度がある国では、普及が進んでいます。
 日本でも、「再生可能エネルギー買い取り法案」が8月に成立しましたが、野田佳彦首相は原発の再稼動を表明するなど、相変わらず政治のドタバタ劇がガラス張りで見える状況です。
 今、私たちは地球規模でさまざまな危機に直面しています。日本の政治を見ていると、3月11日の東日本大震災が起きなかったかのような危機に対する希薄さに、怒りを感じます。
 自然エネルギー普及を進めるに当たり、震災を原点にした施策が重要だと思います。ISEPは複数の団体と協力して、自然エネルギー発電で被災地を支援する「つながり・ぬくもりプロジェクト」を始めています。
 被災地では、電気やガスのライフラインが不十分なままの避難所などが少なくありません。このプロジェクトでは、「太陽光発電システム」「太陽熱温水器」「まきかまど・ボイラー」を避難所などに設置して、被災された方に電気、お湯、お風呂を届け、喜ばれています。
 被災地に限らず、地域のお年寄りや子どもなど社会的弱者にとって、安心・安全なエネルギーを供給するという政治的・社会的理念が、何よりも必要だと思います。

―自然エネルギー分野で小企業が参入する可能性はありますか。

Photo
小水力発電施設(岐阜県中津川市・馬籠)

 「全量買い取り制度」が実現すれば、日本中の誰もが発電所になれます。従って、自然エネルギー事業は、多様な企業の参入を促し、思いもよらないベンチャー企業が誕生するでしょう。
 小さな企業や自営業者にとっても、製造、供給、メンテナンス、物流などの分野で参入可能です。特に、専門的な製造技術を持つ中小企業にとっては、部品製造で活躍できます。製造技術がなくても、基礎技術などのアイデアがあれば、それを大企業に売って資金を手にすることもできます。その場合は、大学など研究機関との連携が必要でしょう。
 また、自然エネルギー事業は、市民や地域のコミュニティーがかぎを握っています。たとえば、大企業が大きな発電所をつくろうとすれば、必ず反対運動が起きます。大企業は、地域とのつながりがなく、地域の事情を無視するからです。
 電力は公共的な役割を担っています。市民が地域エネルギー問題について考えて連帯し、市民主導でプロジェクトを進めなければ、地域に根付くことができません。
 現に、補助金目当てで行政まかせのエネルギー事業では失敗が全国的に相次いでいます。
 持続可能で安心・安全なエネルギー政策への転換を国に迫り、市民主導で地域のエネルギー事業を推進していく仕組みづくりが不可欠です。そこにおいては、小企業の活躍が欠かせないと思います。


▽環境エネルギー政策研究所(ISEP)
 持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した第三者機関。地球温暖化対策やエネルギー問題に取り組む環境活動家や専門家によって設立された。市民ファンドを活用した市民風車、太陽光発電事業なども発案し、関係事業体であるエナジーグリーン株式会社によって実現している。

飯田哲也(いいだてつなり)
1959年、山口県生まれ。京都大学原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得。電力関連研究機関などで原子力R&Dに従事した後に退職。現在は環境エネルギー政策研究所所長で、自然エネルギー政策の第一人者。9月に政府の「エネルギー基本計画」審議委員に選ばれた。

全国商工新聞(2011年10月10日付)
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